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エッセイ

 このページではオーディオにまつわる話題だけでなく、いろいろなことをエッセイ風に、日記風に書くつもりです。少しでも役に立つ記事。読んで何かのヒントが見つかるような記事。そんなことを目標にして少しずつ追加していく所存ですので、宜しくお願いいたします。








              ピラミッド型バランスと若者のカーステレオ     2009.02.03.
           オーディオという趣味                              2009.04.07.
           摩訶不思議                                         2009.04.08.

           再生帯域に対する無関心                         2009.04.11.

           SHM-CD etc <高音質CDとは>                  2009.04.15.
           もともとオーディオファンはいなかった           2009.04.27.
           再生帯域の問題                                    2009.04.28.

             お詫びとお願いと反省                             2009.05.17.
           SACDなんか無くなってしまえ                     2009.05.22.
             オーディオという趣味が始まる瞬間              2009.05.23.
           音キチと物キチ                                     2009.05.31.
           孤独な音吉の修行                                 2009.06.01.

           広瀬川と音キチ                                     2009.06.02.
           コンデンサー型ウーファー                         2009.06.08.
           ハイエンドの限界                                   2009.06.14.
           オーディオ方程式                                   2009.06.15.
           長岡鉄男氏は前橋に縁がある?                   2009.06.16.
           方舟をぶった切る                                   2009.06.17.
           楽しいままで終わりにしよう                        2009.06.18.

           今日は方舟の種明かしをします                   2009.06.23.

           バランスという考え方が欠如していませんか     2009.07.16.
             忌まわしきSACD・・・・・HYPS                      2009.07.17.
           クラシックが鳴らないイライラ                       2009.08.17.
           時間が足りない、人間の一生なんて                2009.09.14.






ピラミッド型バランスと若者のカーステレオ 2009.02.03.

 音吉に訪れるお客様のほとんどがピラミッド型バランスの音がお好きのようです。工房音吉はピラミッド型バランスの音が嫌いなわけではありません。が、最近悩んでおります。SACDが上手く鳴るように調整していくとピラミッド型バランスの音ではなくなってしまいお客様は納得しないのです。

 都合上、その音を「とんがりコーン型」と呼んでいますが、お客様は「高域が出過ぎている」とか、「低音が足りない」などと言います。SACDをピラミッド型のバランスで鳴らせるのか、これが最近の課題です。現在のところ、ピラミッド型バランスの音ではSACDを鳴らすことは出来ないというのが結論です。

 100Hz前後をふくらませて15kHzあたりからなだらかに高域を落としていくと見事なピラミッド型バランスの音が作れるのですが、上も下ものばしてピラミッド型バランスを保とうとしてもピラミッドでなくなってしまうのです。

 SACDに含まれている音場情報を再生するとき、15kHzあたりからなだらかに高域を落としていくやり方では音場は上手く出せません。必然的に高域をある程度までしっかり出すことが重要になります。ピラミッドの頂上は鈍角でなく鋭角になります。100Hz前後をふくらませてある低域はダイエットしないと50以下の低域がつながりません。

 ピラミッド型バランスの音はLP時代に完成されたものと思います。再生帯域が狭いからこそ考え出された再生方法と言えます。低音感を出すために100Hz前後をふくらませ、高域はなだらかに落としていき低音とバランスをとる。自然にピラミッド型バランスの音が出来るのです。

 さて、若者のカーステレオの音ですが分類するとしたら、あれはピラミッド型バランスの音になります。頂上は普通のピラミッドより鈍角になります。さらに低音の膨らませ方は尋常ではありません。しかし、しっかり市民権(若者権)を得ている音です。普通のピラミッド型も市民権を得ていますが、「とんがりコーン型」ははたして市民権を確立出来るのでしょうか。




オーディオという趣味 2009.04.07.

 オーディオって、趣味の中ではかなり上のクラスに入る趣味だと思います。自分の頭の中で出したい高度な音が鳴っている。しかし、その出したい音を現実に自分の部屋で出せるようになるのにはひとりの人間の一生では無理な場合もあります。調整が終らないからこそマルチアンプに挑戦した人はなかなか自分の音を公表しないのです。

 LCネットワークを通した音に愛想をつかし、いざマルチアンプに挑戦した筈ですが、なかなか調整が出来ないのです。まごまごしていると、LCネットワークを使っている既製品の音の方がはるかに良いなんていうことになってしまいます。実際、マルチアンプに挑戦している人はオーディオの話題になると知らん顔をしている人が多いのです。誰かに「音を聴かせて欲しい」と言われるのが怖いのです。

 調整の終わっていない装置では、ピアノも上手く鳴らないし、鬼太鼓座のバチの音も出ない。そんな音を人様に聞かせるくらいならオーディオなんかやっていませんよというポーズをとっていた方が良いのです。

 マルチアンプって調整が上手くいけば天国ですが、調整を終えることなく、のた打ち回りながら安らかならざる顔でこの世を去った人のほうが多いということはオーディオという趣味の深さ、怖さを物語っています。高価な道具をそろえれば、極上な音が出る訳ではありません。金があってもどうにもならないのがオーディオという趣味の特殊性です。ゴルフの世界でも高い道具をつかえばスコアがよくなる訳ではありませんよね。鳴らし方、飛ばし方がわかれば安い道具で立派な音も出せるし、スコアもよくなります。




摩訶不思議 2009.04.08.

 昨日は「金のかからないオーディオ・序章」みたいな内容になってしまいました。マルチアンプなどという金がかかり忍耐を要求するような高度な世界はさて置き、今日は「現在手元にある既製品スピーカーを使いあっと驚くような音を出す方法」みたいな内容にするつもりです。

 まず、スピーカーは壁から2メートル以上離す。それでも上手く鳴らない場合は壁に厚手のカーテンをひく。これだけです。既製品スピーカーはどういうわけか知りませんが、ほとんどの製品が壁から離して使うよう設計されています。設計を無視した使い方はやめましょう。性能が発揮されません。

 しかし、6畳の部屋で壁から2メートルもスピーカーを離したら、スピーカーはほとんど目の前にきてしまいますよね。ドーシタラ良いの?壁に近づけるのです。設計を無視しましょう。そのかわりカーテンより厚い毛布などを吸音材として壁に垂らすのです。

 定位も定まらずに肥大していた歌手のお口が小さく小さくなります。壁掛けスピーカーとかの方が使いやすいと思うのですが、何故か壁から離して使うスピーカーを設計者は好むようです。摩訶不思議。例外としては、コーナー設置タイプのタンノイ、ウエストミンスター(最新型を除く)や壁密着タイプのマッキントッシュスピーカーなどがあります。




再生帯域に対する無関心 2009.04.11.

 工房音吉を開店してからいろいろなお客様がお見えになりました。一番驚くことは、既製品スピーカーの設置についてほとんどのお客様が知らないという事です。メーカーはダンマリをきめて何も設置方法の説明をしないから当然と言えば当然です。正しい設置方法については前回の摩訶不思議 2009.04.08.に書きましたので参考にして下さい。

 そして二番目に驚く事は、SACDを鳴らすには広帯域再生が可能なスピーカーが必要という事が理解されていないということです。みなさんLP時代やCD時代に購入したスピーカーでSACDを鳴らしているようです。簡単に説明しますと、50〜20000Hzくらいの再生能力しか無いスピーカーではSACDの良さは体験できないのです。

 昔のスピーカーや新しいスピーカーでも再生帯域の狭いものには、スーパーツィターやサブウーファーを追加しないと、SACDソースに含まれている20k以上の倍音成分や50Hz以下の低音が再生できないのです。しかし、再生能力の低いスピーカーではSACDが聴けない訳ではありません。鳴ることは鳴りますが、わざわざSACDソフトの情報量をCDやLPのレベルにまで落として聴くことも無いと思います。

 SACDを広帯域再生が可能なスピーカーで聴いた場合のまず第一声は「空気感が違う」です。再生帯域の狭いスピーカーでSACDを聴いた場合には「音が柔らかくなる」がほとんどです。多くのお客様が工房音吉にてSACDを聴いたあとには「SACDは音が柔らかくなる」などとは言わなくなります。「SACDは音が柔らかくなる」などと何気なく口にする事は「私は再生帯域の狭いスピーカーでSACDを聴いています」と表明しているようなものです。恥ずかしいことかも知れません。




SHM-CD etc <高音質CDとは> 2009.04.15.

  最近、高音質CDというものが世間で話題になっています。「SHM-CDってどうなんですか?」工房音吉においてもこのような質問が多くなってきました。正直言って、SHM-CDに代表されるような高音質CDというものを聴いたこともなければ、買おうと思ったこともありません。

 接続ケーブルやスピーカーケーブルにも工房音吉は無関心です。電源コードや電源タップについてもしかり。音が変わることは認めますが、やはり自分には必要のない物という結論になってしまいます。実際に購入した人の心境たるや悲哀とも言える、なにか納得いかないものがあるようです。何故、試聴もしないで買ってしまうのか、試聴さえすれば、その場で必要なものか必要でないかは判断できる筈です。

 結論としては、マニアレベルの再生装置に高額な接続ケーブルやスピーカーケーブルは必要ありません。必要が無いどころか、使うとかえって変な癖が出てしまいます。(既製品スピーカーには有効な製品かもしれません。)高額な接続ケーブルやスピーカーケーブルを買うくらいならマニアレベルのスピーカーにグレイドアップしたほうがすっきりしませんか。普通のケーブルで[既製品スピーカー+高額な接続ケーブルやスピーカーケーブル]よりはるかに高度な音が出せますから。

 さて、SHM-CDですが、結論としては、聴いたこともないのに音質は普通のCDより良いと認めます。さらにマニアレベルの再生装置で聴いた場合、癖のある音になるとも思えません。、しかし、SHM-CDを買うならSACDを買ったほうがはるかに音は良いと考えます。ごく僅かな差を求めるより、大きな差を提供してくれるソースを大事にしたいと思います。ベンツやポルシェに細工をするよりレース仕様車の方が間違いなく性能は上です。

 古いアナログ録音でも本当に録音の良いものはSACDにリマスターされて出ていますので、SHM-CDなどを買うよりSACD盤を買うほうがマニアとしては正解でしょう。SACDはマニアレベルの人を相手にしていますが、SHM-CDはハイエンドレベルまでの人を相手にしていると言えます。CDは100点、SHM-CDは110点、SACDは200点。




もともとオーディオファンはいなかった 2009.04.27.

 かなり前から、オーディオが衰退していると嘆いているベテランの方が多数おられます。「I-PODはオーディオとは呼べない。」、「あんな音の悪いものでは音楽は聴けない。」などなど。しかし、現実にはI-PODの音に不満を感じ本格的なステレオ装置を購入する人の数は少ないのです。

 ベテランにとっては、LP時代やCD時代のようにある程度のスピーカーを用意して部屋を音楽で満たすような聴き方がオーディオの最低条件になるようです。小さなイヤホンで音楽を聴くなんて逆立ちしても理解出来ない訳です。

 ここで考えなければいけないのは、人により音楽を聴くのに必要な道具は違うということです。多くの人にとってI-PODは合格点の音を提供してくれる道具なのです。LP時代にもしI-PODが発売されていたら簡単にLPは衰退していたでしょう。あんな大きな円盤を回して音楽を聴くなんて、ソースとしてそれしかないから多くの人はLPを聴いていた訳ですが、LPの音質が必要であった訳ではありません。

 CDが普及したのはLPより音質が良いからではなく、LPより小さいからです。ミニコンポというものはLPより小さいCDが出現したからこそ製品化できたわけです。大事なのは音質ではなくソースの大きさです。I-PODではダウンロードで音楽を取り込めます。部屋の中にかさばるCDジャケットがいっぱいになることはありません。

 簡単に言えば、大衆が求めていたのは音質ではなく、ソースの小型化と装置の小型化であった訳です。最初から音にうるさい人の数は多くなかった。そんなことを工房音吉は最近考えています。音楽ファンの数は減っていない。そして、もともと極少数しかいないオーディオファンの数も減っていない。

 賛否両論、いろいろあると思います。メールをお待ちしております。




再生帯域の問題 2009.04.28.

 クォードという会社は独特の哲学を持っています。「家庭で音楽を聴くのに必要十分なオーディオ機器を提供すること」、短くまとめるとこんな感じになると思います。SACDが発売されてから10年くらい経つというのにクォードはSACDプレイヤーを発売していません。家庭で音楽を聴くのにSACDは必要ないという哲学が確立されているのかもしれません。

 工房音吉はマニアレベルの人を相手にしているのでSACDを重要なソースとして扱っています。しかし、音楽を聴くのにSACDが必要かと問われれば「必要なし」と答えます。もっとはっきり言えば、CDラジカセあたりの再生帯域があれば十分音楽は楽しめると考えている訳です。

 音に興味のある人にとってSACDを上手く鳴らすということは重要な課題となる筈です。広帯域再生は10年選手や20年選手の実力では無理と言えるくらい高度な世界です。しかし、そうだからこそマニアの挑戦心をあおるのです。

 音には興味が無く、音楽が楽しめればそれで良いという人にとって、SACDは必要ない。このことに反論する人はいないと思います。しかし、どのくらいの再生帯域があれば十分かという点に関しては人により様々だと思います。

 クォードの哲学ではCDの帯域が必要であり、レコード派の人にとってはLPやSPの帯域が必要であり、工房音吉の哲学ではCDラジカセくらいの再生帯域が必要ということになります。しかし、このような哲学は世の中では少数派になりつつあります。世の中で急速に支持されている哲学はこうです。「音楽を聴くのには、I-PODの再生帯域で十分」




お詫びとお願いと反省 2009.05.17.

 いままでに、いろいろな場所で既製品スピーカーを使ってSACDを鳴らす方法について言及してきましたが、もしかしたら大変なご迷惑をお掛けしたかも知れません。ただの再生帯域の問題として、いろいろな方法を紹介してしまいました。

 高域の伸びているトールボーイタイプのスピーカーにサブウーファーを左右1本ずつ追加するやり方。もしくは古典的スピーカー(LP時代やCD初期に発売されていた再生帯域の狭いスピーカー)にスーパーツィターとサブウーファーを追加するやり方。などなど、いろいろな方法を無責任に紹介してしまった気がします。

 概して、既製品スピーカーは反応の速い音が出せません。設計者は密閉箱やバスレフ箱が不思議なほど好きです。密閉箱やバスレフ箱はコーン紙が前に出ようとする時大変な負圧をかけます。反応の遅いモヤっとした音しか出せません。さらにLCネットワークを使うことにより音はまぎれもなく純度の低い音になります。

 そのような音しか出せない既製品スピーカーでは、スーパーツィターやサブウーファーを追加してもSACDソースに含まれている空気感を上手く再生出来ません。高域から低域まで反応の速い音で統一しないとSACD再生はやはり無理です。

 スーパーツィターはほとんどの製品が速い音を出します。と言うより反応の遅い高域というものは作れないのです。公称50kまで再生出来る既製品スピーカーといえども反応の遅い低域や中域に合わせて高域はなだらかに落としています。そうしないと反応の速い高域だけがつっぱってしまいます。

 簡単に言えば、既製品スピーカーでSACDは上手く鳴りません。プレーヤーでSACD再生とCD再生切り替えボタンを操作してもほとんど違いがわからない場合が多いと思います。

 既製品スピーカーを全機種調べる時間がありませんが、中にはSACDとCDをかなりのレベルで鳴らし分ける既製品スピーカーもあると思います。もしご存知でしたら、メールにてお知らせ下さい。これはお願いです。

 このホームページは既製品スピーカーに愛想をつかしたマニアレベルの人を相手にしているので既製品スピーカーに対して真剣さが足りません。そのために安易な解説をしても、まさか既製品スピーカーでSACD再生を試みる人はいないという安易な考えと独りよがりの思い込みがあったことは確かです。反省しております。




SACDなんか無くなってしまえ 2009.05.22.

 SP⇒LP⇒CD⇒SACDとオーディオは順調に進化してきたのでしょうか? テレビのハイビジョンという規格はかなり一般に受け入れられてきていますが、音に関してはむしろ再生帯域の狭いものに勝利が移行してしまったようです。I-PODに代表されるような再生機器が音楽を聴く道具としてのチャンピオンであることに異議を唱える人はいないと思うのです。しかし、音にうるさい少数の人にとってSACDは厄介な存在になりつつあります。

 工房音吉はオーディオマニアの方を相手にしていますので、つまり音に興味のある方を相手にしていますのでSACDは大事なソースになります。反対にマニアとしてSACDを上手く鳴らせないという事は大変な恥になる恐れがあるのです。「20年も30年もオーディオをやってきて、あの人はSACDを鳴らせない」こんな屈辱的な言葉を受けたくはありません。

 しかし、SACDは怪物です。10年選手や20年選手を簡単には寄せ付けない超高度な世界です。マニアの中でもほんの一握りの人しかSACDは鳴らせません。マルチアンプの調整ですら難しくて匙をなげてしまう人がいるというのに、さらに帯域の広いSACDを相手にするには並大抵の覚悟では出来ません。

 前回、書いたようにSACDは全帯域の音の速さを速くしないと上手く鳴りません。この時点で密閉型、バスレフ型、LCネットワークが排除されます。つまりSACDは最初からマニアを相手にしていると言えるのです。マニアの中でも上級マニアを相手にしていると言えます。

 SACDが出現したことにより、マニアの中でもはっきりした線引きが出来てしまいました。SACDを鳴らせるマニアと鳴らせないマニア。そしてその下にはハイエンドを含めた既製品スピーカーで音の追求に励む一般オーディオファン。

 マニアとしてのプライドをSACDの出現により傷付けられた人もいると思います。鬼太鼓座のバチの音も出せる、ピアノのタッチの微妙な変化も楽に出せる。しかし、SACDに含まれている「空気感」を出すことが出来ない。いっその事「SACDなんか無くなってしまえ」と思っているマニアの方も多いと思います。

 マルチアンプの調整が出来ずにオーディオに対して自暴自棄な乱暴な言葉しか吐けなくなった方、マルチアンプの調整は出来ても、さらに広帯域のSACDが鳴らせなくてマニアとしてのプライドを傷付けられた方、音吉に遊びに来てください。プライドを回復しましょう。




オーディオという趣味が始まる瞬間 2009.05.23.

 長らくオーディオをやってきたA氏は、現在ハイエンドと呼ばれるクラスの再生装置に囲まれて至極満足な日々を送っています。訪問者は口々に「すばらしいステレオをお持ちですね」と褒めたり、音の良さを云々したり・・・・・・・・・・・・。

 中には、彼のステレオについて何も言わないで黙っている人もいます。これがマニアです。マニアにとってはハイエンドクラスの音など、どうでもいい事なのです。

 ある日、A氏がこのマニアのお宅を訪問することになりました。A氏宅ではオーディオのオの字も口に出さなかったマニアですが、「ほほう、あなたもオーディオをおやりになっていらっしゃるのですね」と言うA氏の言葉に「あまり高い機械はありませんが、なんとか楽しんでいます」と答えました。

 A氏はマニアのステレオ装置を軽蔑したような目つきで見回し、心の中では聴きたくもないのに、「何か聴かせてもらえませんか」と言ってしまったのです。A氏にとって本当のオーディオという趣味がこの時始まるとは夢にも思っていなかったわけです。

 マニアですから出す音のレベルはA氏の音のレベルよりはるかに上に決まっています。目が点とは、この時のA氏の表情です。既製品スピーカーにしか触れる機会のない大多数の人が、初めてマニアクラスの音に接した場合よくある反応です。

 A氏の場合、初めてオーディオマニアの音に触れ、オーディオという趣味は単なる物集めの趣味とは違い、出て来る音でレベルが判断される趣味であることを痛感したわけです。しかし、A氏にはマルチアンプを究める時間はありません。そんな時はマニアグレイドの完成品スピーカー「音吉モニター」を考えてはいかがでしょうか。




音キチと物キチ 2009.05.31.

 工房音吉の名前は「音キチ」から取りました。英語で言えばオーディオマニアになると思います。ランクの問題としてはハイエンドクラスより上のクラスの音を出そうとしている人のことを工房音吉ではマニアとお呼びしているつもりです。

 よくあるケースで、総額300万または500万以上の装置をお持ちの方が自分自身のことをオーディオマニアと錯覚している場合があります。キチとかマニアという言葉は否定的な意味合いや軽蔑的な意味合いもあり、自らマニアと呼ばれたいという心境たるや想像のつかないものがあります。

 音キチ・・・・・・それは病気です。精神病のひとつです。音楽を聴くのにはI-PODで十分という極めて正常な人から見れば、音キチは病気以外の何物でもありません。SACDなどという音楽を聴くのには必要もないような広い帯域をもったソースを再生できずに、自分のレベルの低さをこれでもかと思い知らされて、くやしくて、悲しくて、夜も眠れないのが音キチです。

 夜眠れないだけでなく、マルチアンプの調整ができずに70才や80才にもなってしまう人も沢山います。そして死ぬ。音キチという言葉には明るい響きはありません。もともとオーディオとは修行ですから。オーディオマニアが集まれば現在抱えている問題を解決してくれる人がいるのではないかと、悩みの打ち明けあいが始まるのが常です。

 総額300万または500万以上の装置をお持ちの方で自分自身のことをオーディオマニアと錯覚している場合、オーディオマニアと呼ばれるのに何が足りないのか。それは悩みです。苦痛です。修行です。高級品をお持ちの人の大部分は悩みなどありません。「きみぃ、I-PODもいいがハイエンドも聴いてみたら良さがわかると思うよ。」ルンルン。

 悩みもなく、音の調整ができずヘトヘトになり眠れない夜を過ごすこともない。なんと正常な人でしょう。こういう人をどうしてオーディオマニアと呼べるのでしょうか。どうして自分のことをオーディオマニアと思いたいのでしょうか。音キチは音にこだわる病気です。物にこだわる病気は物キチと言います。どちらも病気です。ただ音キチは暗く、物キチは底抜けに明るい。ルンルン。

 工房音吉は、はっきり言って底抜けに明るい人が来る場所ではありません。言葉を正しく使えば物キチの来る場所ではありません。物キチの症状特有なものに「自慢癖」というものがあります。この自慢癖は音キチの脳波を破壊します。平たく言えばウットウシイ。




孤独な音吉の修行 2009.06.01.

 工房音吉には50畳の試聴室があります。国道沿いの窓ガラスには「マニアの音公開中」と貼り出されています。「物キチの音ではなく音キチの音公開中」と出しておけば、自慢ばかりしたがる物キチが間違って来店することはないのかな、などと時々考えることがあります。

 はっきり言って、物キチとお話をしていても時間の無駄です。人生は短い。せっかく、かかわりを持ったオーディオの世界ですから、音のことについてお話の出来る人に会いたい。やれJBLを持っていますとか、やれタンノイを持っていますとか、自慢したくてしようがない人が来ても、音吉は既製品などには興味がないので、「良いものをお持ちですね」と小学生が教科書を読む時のように感情のないセリフを吐くだけです。

 「音吉モニター」は口径10センチのフルレンジとソフトドームツィターを使った小さなスピーカーです。再生帯域は20Hzから30kHzくらい。音吉自身が自慢したいのか知りませんが、物キチの人に普段聞いたこともない20Hzくらいの低音を聞かせると大概こう言います。「なかなかいい低音が出ているね、しかし君も38センチウーファーを聴いてみたらいいよ。スケールが全然違うよ。」

 音のわかる人はこんな事は言いません。「何故だ、何故あんな小さなフルレンジから38センチでは出せない低音が出るのだ?」と心の中だけで言い、スピーカーに足早に近寄ります。そして、承諾も得ないでスピーカーを傾けて裏板を叩いたりします。音吉はバスコンプレッション方式の説明をして、音のわかる人はさらに質問をします。

 工房音吉は孤独です。お客様のほとんどは物キチで、時々いらっしゃる音のわかる人にはいつも説明をするだけ。しかし、音吉のレベルは低いのです。20Hz以下の音をバスコンプレッション方式で出せるのか、このあたりの実験はまだやっていません。20Hz以下の低音を出す場合、50畳の部屋では小さいのではないか。いろいろなことが分からないのです。

 マニアに会いたい、マニアと話しがしたい、自分より経験のあるマニアがいるはずなのにいっこうに現れない。国道沿いの窓ガラスに「経験豊富なマニアの方、熱烈歓迎」とでも出そうかしら。その前にやはり「物キチお断り」かな。




広瀬川と音キチ 2009.06.02.

 工房音吉の試聴室から広瀬川がすぐ近くに見えます。広瀬川と言っても仙台にあるあの有名な広瀬川ではありません。前橋の市内を流れる小さな川です。しかし、川幅は10メーターくらいはあります。春の桜の時期なんか、のんびり散歩をしながら花を見たり、流れる水の音を聞いたり・・・・・・・。音吉店主はこの広瀬川を見ながら日夜、音の修行に励んでいるわけです。

 オーディオを長くやっていると、写真を見ただけでその装置からどんな音が出るかおおよその見当がつきます。と言うより、音自体が頭の中で自然と鳴るケースが多い・・・・・・・。

 ある日、工房音吉の試聴室で、これから死ぬまでにやりたいことをまとめていました。人間の一生ではオーディオはやりつくせません。やりたい事がいろいろ浮かんできますが、今回の人生の残りではやはり広帯域再生を完成させる事が大事であると思いました。0から100kHzは無理としても、5から100kHzならなんとか出せるのではないかとこの日も思いました。

 この日、窓から広瀬川をちらっと見た時、「405-8Hを2発使いバスコンプレッション方式のスピーカーを完成させれば案外20以下の低音は出せるのではないか?」とひらめきました。100kまで出せるツィターは沢山あり、選ぶなら何がいいか考えているうちに、405-8Hが2発ついたバッフルにホーンツィターがついた姿がくっきり浮かんできたのです。その時、5から100kの音が頭の中で鳴り始めました。

 なんと表現したらよいのでしょうか、多分いままで誰も聴いたこともない広帯域の音を自分は聴いてしまったのです。頭の中で。この音は死ぬまでに絶対出すぞと誓いました。堅い決意とともに、405-8Hの2発使いを思いついた嬉しさに、工房音吉の試聴室がお城のように見えました。

 窓の外には神田川ではなく、セーヌ川が流れている。そんな気分でした。この時以来、私は広瀬川のことをセーヌ川と呼ぶようになりました。しかし、近所の小学生がこう言いました。「おじさん、広瀬川がセーヌ川に見えたら終わりだよ」

 いいんだ、もともと「音キチ」という病気もちなんだ。ひとつくらい病気が増えても。




コンデンサー型ウーファー 2009.06.08.

 広瀬川がセーヌ川に見えたり、現実には鳴っていない音が聞こえたりするのは病気です。リッターあたり100kmや200kmの燃費の車が欲しいというのは「無い物ねだり」と言います。オーディオの世界に、もしコンデンサー型ウーファーが販売されていたら売れると思うのですが、やはりこれは無い物ねだりでしょう。

 SACDを鳴らす場合、大事なのは反応の速い音が必要という事です。マルチアンプ方式でSACDを鳴らそうとする場合、高域や中域は問題なく反応の速い音は出せます。しかし、低域はどうでしょう。大口径のウーファーを使っている人で低域だけはどうしても反応の速い音が出せないで、苦しんでいる人も多いと思います。

 そんな場合、コンデンサー型ウーファーが単体売りされていたら、なんと都合の良いことでしょう。反応の速い低域がユニットを交換するだけで出ます。しかし、多くの先輩たちが苦しんだように低域のエネルギー感が出せないことは確かのようです。

 工房音吉ではマニアグレイドの完成品スピーカーとして「音吉モニター」や「音吉モニターU」を販売しています。原理的にはコンデンサー型ではありません。が、振動系の軽い口径の小さなフルレンジを使うことにより全帯域で反応の速い音を実現しています。しかもバスコンプレッション方式を採用することにより50以下の低音もすんなり出してしまいます。そして、エネルギー感もあります。

 コンデンサー型ウーファーが単体売りされているなら、マルチアンプでSACDは簡単に鳴らせるでしょう。しかし、無い物ねだりはやめて、現在のマルチアンプシステムの低域を改善してみませんか。ポイントはなるべく軽い振動系をもつ小口径ウーファーを採用すること。そして、バスコンプレッション方式を研究して50以下の低域も出してしまいましょう。

 反応の速い音は、振動系の重い大口径ウーファーでは無理です。ゆったりした反応の遅い音を必要としている場合には大口径ウーファーは有利です。音場ということを重要視するSACD再生には反応の速い音が全帯域で必要です。このことに気付かないでいるとSACDを鳴らせない二流マニアのままで人生を終わることになります。




ハイエンドの限界 2009.06.14.

 「SACDは音が柔らかくなるんだ」又は「CDとSACDはたいして差がないよ」・・・こんな事を平気で言える。

 「やはり38センチウーファーでないと本格的な低音はでないよ」・・・と言いながら自分や他人のセットが100Hzまで出せるのか50Hzまで出せるのか何も耳で判断がつかない。

 オーディオという趣味は出したい音があるからこそ始まるのに、何も音に対する好みが無い。何のためにやっているのか?・・・・・見栄、自慢、税金対策、etc。

 パルス性の音を出す楽器は既製品スピーカーでほとんど再生が無理なことに気付いていない。反対に言えば、生の楽器の音を知らない。・・・・・・ステレオは高いものを揃えるが、楽器の音がよく聞こえる席を買って生演奏を聴いたことがない。

 クラシックなどの場合、安い席でしか聴いたことの無い人は既製品スピーカーに対して何の不満も持たない。いい席でばかり聴いている人でも既製品スピーカーに対して何の不満も持たない人もいる。「所詮、既製品スピーカーの音はこんなもんでしょう」と割り切り、CDラジカセあたりしか購入しないタイプ。そして、いい席で聴いても楽器の音を把握できないタイプもいる、こういう人が案外高級品を買っている。

 「どんな音がお好きですか」と聞かれても、持ち物の話を始めるだけの人が高級品所有者に多い。こちらがその人の好きな音を想像して「その傾向の音で○○○○の音はちゃんと出ますか」なんて聞いても「いやー、とにかくイイ音だよ」なんて言う。それだけならいいが「買ってみれば良さが分かるよ」とまで言う。金はあるが品の無いタイプ。品が無いのは自分も同じ。

 しかし、音が分からないのに、ナゼ音キチを訪ねてワザワザ物の話をしたがるのだろう?  「あっしは物キチになれるほど金なんかありませんぜ、あんたのお話の相手が出来るほど高級品とかに興味はありませんぜ。金さえあれば高度な音が出せるなんていう幻想が通用する程オーディオは腐った趣味ではありませんぜ。幻想交響曲が上手く鳴らせないで幻想が打ち砕かれるのがオーディオという趣味ですぜ。」

 疲れました。音吉は金持ちではありませんが、立派な病気持ちです。病気のお話をしましょう。物キチという病気ではなく、音キチという名の病気の話を。どんなことで苦しんでいるのか、そしてそれに対して治療法はあるのか無いのか。やっかいな病気ですから、健康な物キチさんは音キチさん同士の場での「自慢」はお控え下さい。

 ゴルフ場でスコアを良くするために先輩に教えてもらう。そんな場で高級クラブセット購入の自慢話などをしたくて仕様がない人がいると迷惑でしょう。音吉は音で悩んでいる人が集まる場所です。自慢する場所ではありません。しかし、お金があることはいいことですよ。物キチという病気さえ抱えてないなら。




オーディオ方程式 2009.06.15.

 高い製品を持っている人≠高度な音を出せる人

 高い製品を持っている人≒音の分からない人

 高い製品≠自分の考えている高度な音が出せる製品

 高い製品を持っていることを自慢すること≠オーディオという趣味

 音について悩み、修行に励むこと=オーディオという趣味

 どうしても高価な製品が必要になり、どうしても金の工面がつかない人=標準的な音キチ

 金がなくても知恵や工夫で出したい音が出せる人⇒そんな人に私はなりたい。(しかし、貧乏や貧困は嫌いです。誤解無きよう。)




長岡鉄男氏は前橋に縁がある? 2009.06.16.

 自分は長岡鉄男ファンではありません。しかし、近所に長岡鉄男ファンクラブ群馬県支部長が住んでいます。(正式にはミューズの会と言うらしい) 彼は幼稚園か小学生の頃からオーディオをやっているのでオーディオ歴は若いのに(ひょっとしたら、まだ30代)音吉店主より長いようです。雑誌の取材を何回か受けているので記事を読んでいる方も多いと思います。

 フルスケールのネッシーを愛用しているので、天井高は???メーター!!!!  「あっと驚く為五郎ーー」とはこのことか。わが町(前橋市住吉町)に、こんなキチがいるとは、音吉さんなんぞはキチに入りません。工房音吉の天井高はたったの2.6M。レースにならない。

 さて、長岡鉄男氏存命中に、彼は何回も方舟を訪れており、勿論長岡氏と直接、お話もしています。全国の長岡ファンの皆様、これから彼から仕入れたお話をもとに音吉はこのエッセイ欄を通して音吉流「勘音力」でネッシーやスワンなどをぶった切ってみたいと思います。

 本来、長岡氏よりリミッターのかからない毒舌を自認している工房音吉がまず問題にしたいのは、どこかの国の国防省がクレームをつけたか知らないが、あのヘンテコリンなかっこうをした「方舟」。

 最近、「物キチ」駆除のための原稿に熱中していたせいか、元気がない音吉ですが、ここで本来の音吉に戻るつもりです。しかし、全国の長岡ファンを敵に回してはいけません。ぶった切るようでいて褒め、褒めているようでいてぶった切る。そんな文章でのらりくらり笑わせたりする所存です。

 原稿用紙の在庫がなくなってしまいました。「方舟」のお話は次回ということで、グッドバイ。すぐに編集長に電報を打って原稿用紙送らせなきゃ。お姉さまがお庭で立ち小便をしている間に。




方舟をぶった切る 2009.06.17.

 お姉さまがお庭で立ち小便をしている間に原稿用紙が届きました。さて、何から書いたら良いのでしょう。ミューズの会群馬県支部長が私の前に現れたのは、音吉開店前の2008.01.15.くらいです。(音吉開店は2008.01.31.です。) あのころは工房音吉の店舗は同じビルの1Fにありました。

 勿論、1Fからもセーヌ川は見えていました。しかし、1Fの部屋はスピーカー設置位置から平行に左右の壁がリスニングポイントまでつながっている長方形の部屋ではなく、とてつもなく変形している部屋でした。低音は壁さえ平行につながっているならそんなに減衰せずにリスニングポイントまで届きます。

 しかし、河ビル101は左の壁がないに等しいのです。当然低音は減衰し放題で、店主の顔はブリュウアンドホワイト(青白い-pale)。そんな状況で、見せられたのは音の殿堂「方舟」の写真とイラストでした。この時、河ビル101と方舟がダブッテ見えました。「方舟の方がひどいもんだよ。スピーカー設置位置から離れれば離れるほど左右の壁がどんどん広がっていく。」

 長岡氏が同じ悩みを抱えていたに違いない。「うれしい」とは音吉のせりふ。長岡大先輩なら、そんなことはとうの昔に解決済みに間違いなし。さぐりの質問として、「スピーカーから一番離れた位置では低音が不足して聴けた音ではない筈なんだけど?」

 支部長は質問の意味がわかっているのか、わからないのか、怪訝な顔で「スピーカーから一番離れた位置で聴く人もいましたよ」なんて涼しい答え。みなさん、この時の音吉のレベルがいかに低かったかお分かりですか。方舟では低音は普通の部屋より減衰しにくいのです。

 何故、方舟では低音は普通の部屋より減衰しにくいのか。これが分かるまでに半年くらいかかりました。30年以上音のことを考え続けてきて、ひとつのことが解決するのに10年かかったこともあります。しかし、30年選手が方舟問題を解くのに半年もかけてはいけません。

 方舟の種明かしは、すぐにはしません。みなさん、方舟の見取り図をじっくり見て、考えましょう。答えは勿体無くて支部長にも話してないから、住所や電話番号を調べて支部長に聞いても分からないかもよ。わかっていても涼しい答えで逃げちゃうかもよ。

 あー、もったいない。あー、もったいない。合掌。




楽しいままで終わりにしよう 2009.06.18.

 オーディオに興味を持ち、ある程度の機械を揃え、オーディオの話が出るたびに持ち物の自慢をする。それで済むなら、それが一番良い。なまじっかマニアごときの音に触れると、自分の価値観の転換を迫られたり、自分の実力の低さが露呈してしまう。

 最近、物キチに会うのが嫌で、撃退の文章をいくつも書いた。そして、物キチさんは明るいとも書いた。しかし、音吉を訪れた物キチの多くの方は多かれ少なかれ暗くなってしまったようです。

 まず、「マニアの音公開中」というのがいけない。私にとってはマニアとは自慢する世界とはほど遠く、病気に苦しんで一生を終わる人のことです。しかし、その人の出す音にはその人の命がかかっています。その人の魂がこもっています。工業製品をただ組み合わせたような音とは違うのです。金さえあれば出せるというような音とは違うのです。

 私の書き方がやはり悪いとは思いますが、「マニアの音公開中」という言葉に多くの物キチが反応してしまった。我こそはマニアなりと意気込んで来店した人がたくさんいます。案の定、安いアンプや自作のスピーカーを軽蔑の目で見回して、38センチウーファーを所有していることを自慢したりして帰っていく人も沢山いました。

 しかし、各人が持参したCDを音吉流に調整して鳴らした場合には、物キチの頭の中が180度回転する音が何度も聞こえました。好きなソフトを「鳴らす」とはどんなことなのか、ただ「音を出す」ことしか興味のなかった人が「音楽を鳴らす」ということはどんなことなのか気付いた時には、その人の頭の中から人生の節目の音がハッキリ音吉店主に伝わりました。

 しかし、物キチから音キチに変身しようとしても残りの人生が短すぎる。若いうちからマルチアンプに挑戦したとしても死ぬまでに調整の終わる人は少ない。さらにSACDなどに色気をだせばピラミッドバランスという常識が通用しない世界が待っている。そして、何も物にならないでこの世をむなしく去る人も多い。

 そんなことにならないようにするには、音吉には遊びに来ないように。自分が音キチか物キチかよく考えて、物キチだという判断ができたら、音キチには近寄らずに今のままで人生の終わりまで楽しくいこう。「マニアの音公開中」は非常に誤解を招く言葉であり物キチの人生を狂わしてしまう恐れがあるので考えなおします。音キチに金持ちはあまりいません。物キチであることの幸せを大事にして下さい。




今日は方舟の種明かしをします 2009.06.23.

 まず、低域の出ないCDラジカセを上手く鳴らす方法を紹介します。ほとんどのCDラジカセは200Hzくらいの低音しか出ないと思いますが、試しに部屋のコーナーにCDラジカセを設置してみて下さい。あら不思議、100Hzくらいの低音が出るではありませんか。

 何故、部屋のコーナーにCDラジカセを置くと低音が出るようになるのか。それは部屋のコーナーがホーンの働きをして低音が拡散するのを防ぐからです。さて、もし部屋がひし形をしており、その中のコーナーで鋭角の方にCDラジカセを置いたらどうなるでしょう。この場合には低音はもっと出しやすくなります。音圧的にも、周波数的にも。

 要するに、ホーンが急に90度に開くのではなく、70度とか60度、もっと極端にいえば30度くらいで開くほうが低音は出しやすいのです。中音域でも同じことが言えます。メガホンで90度に開いているメガホンはありませんよね。もっと詳しくホーン(スピーカー)について知りたい場合は専門書を調べてみて下さい。

 さて、方舟ですが、あれは5角形ではありません。あれは変形したひし形と考えるべきです。もうお分かりですね。ひし形の部屋の鋭角コーナーにネッシーは二本置かれているのです。スクリーンがある部分の壁は無視をしてかまいません。部屋全体から見たら、あの大きさの壁は無いに等しい。

 さて、市販の既製品スピーカーを部屋のコーナーに設置したらどうでしょう。低域ばっちり、20HzもOKと思いたいですがそうはいきません。設計が違うのです。既製品スピーカーの設計者は部屋のコーナーや壁に密着させるスピーカーがどういう訳か知りませんが非常に嫌いなようです。既製品スピーカーは壁から2m以上離して使いましょう。

 ネッシーは少なくとも4角形の部屋のコーナーに設置しましょう。しかし、設計の段階で鋭角コーナー設置を考えて作られていますので、4角形の部屋のコーナーに設置しても低域が足りない場合が出てきます。長岡氏曰く、「ネッシーは方舟専用」。もし、4角形の部屋で方舟の音が出したければ、スピーカーの間に、リスニングポイントに向かってとんがっている折りたたみ屏風のでかい物を設置しましょう。低域だけでなく中域もガツンと出てきます。しかし、スクリーンはどうするの?   知らねーよ、オレは。




バランスという考え方が欠如していませんか 2009.07.16.

 音吉を訪れSACDをしばらく聴いたあとに、「ツィターはいくらくらいですか。」という質問がかなりあります。「音吉モニターに使われているツィターなら秋葉原で7500円くらいですね。」といつも答えます。答えた後に、その後起こるであろう事が目に浮かんできます。

 SACDを鳴らすには高域を伸ばすことが大事な事に気付き、自宅のステレオにツィターだけを追加すればSACDが上手く鳴ると結論を出した事に間違いありません。そして、実際にツィターを追加する。2000年以前に販売されていたスピーカーなら15kあたりでつなげば、一応周波数特性的には上手くつながる筈です。

 しかし、これでSACDが上手く鳴るのでしょうか。答えはNOです。既製品スピーカーは反応の速い音を出すのが苦手です。そのスピーカーの音に反応の速い15k以上をつなげばバランスが崩れます。スーパーツィターの使い方として、存在感を出さないようにさりげなくつなぐというのがありますが、これは言葉遊びです。そんなつなげ方ならつながなくても同じです。

 反応の遅い音に反応の速い音をつなげる。完全にバランスが崩れます。腰高で高域だけが存在感を誇示するような音になってしまいます。SACDを聴いてもちっとも楽しくありません。

 もうひとつバランスが関係するものとして、「高域を伸ばしたら低域も伸ばす」ということも見逃してはいけません。もし、反応の速い音を出せる既製品スピーカーがあったとしたら、反応の速いスーパーツィターはうまくつながります。これなら目出度くSACD再生OKと思いたいところですがダメなのです。いくら綺麗に高域がつながったとしても、今度は低域が足りません。

 反応の速い低域を同時に足しましょう。上を伸ばしたら下も伸ばす。これがバランスというものです。しかし、既製品サブウーファーに反応の速い音の出せるものは皆無に近いと思います。結論としては、SACDは既製品スピーカーを卒業したマニアレベルの人が扱うものです。

 鬼太鼓座や1812年などの鳴らすのが難しいソフトは再生帯域が狭い時代のマニア用ソフトになります。SACDソフトは広帯域なのでピラミッドバランスでは上手く鳴りません。SACDを鳴らすにはSACD用のバランスがあります。 (2009.02.03.の記事を参照して下さい)

マニアの方が自分の装置をSACDが再生出来るように調整しなおした場合、今度は鬼太鼓座や1812年が上手く鳴らなくなります。帯域バランスは無視できないのです。工房音吉では昔の帯域の狭いソフトを鳴らすために再生帯域の狭いアンプを用意してあります。

 2000年以前の帯域の狭いソフト用に帯域の狭いスピーカーを一組、2000年以降のSACDやCD用に再生帯域の広いスピーカーを一組用意するのが理想かも知れません。




忌まわしきSACD・・・・・HYPS 2009.07.17.

 ミューズ方舟の会群馬支部長が6月の末に、例のHYPS3枚組みを携えて工房音吉に遊びに来ました。主にSACD盤を試聴したのですが、何か新しい時代のチェック用SACD盤に成りうるものを感じました。しかし、バイオリンなどがBGM的なアレンジで使われていたりして、買うのはどうかなと思っていました。

 しかし、その1週間後には結局、3枚組みではなく1枚もののSACD盤が工房音吉に届きました。何回も聴いているうちに「これは新しい時代の鬼太鼓座だ」と思えるようになりました。昔、鬼太鼓座が鳴らせなくて涙を流した人が沢山いました。HYPSが鳴らせなくてこれから何人の人が涙を流すのだろう。

 と、人事のように思っていたのは最初の3日間くらい。4日目には涙を流しそうになっている自分がいました。最後の曲のボレロが上手く鳴っていないのに気付いたのです。何か20ヘルツくらいの低い音が鳴っているのは分かるのですが他の曲のようにすっきり再生出来ないのです。

 こういう事が起きるたびに、もうオーディオなんかやめようと思うのですが、結局は音キチという病気には勝てないのです。そして、どうにかこうにか問題を解決しながら30年以上が過ぎてしまった訳です。

 原因として考えられるのは、アンプの電源容量が曲にたいして小さい、スピーカーのエージング不足で低域再生が完全でない、フルレンジに低域から9kまで受け持たせる過酷さ、トーンコントロール回路をパルス性の音が通りにくいことなどが頭に浮かんできました。

 何日にも及ぶ格闘の末、結局ボレロはかなり上手く鳴るようになりました。しかし、完全とは言えません。上に記したよっつの原因のうちエージング不足は解消し、パルス性の音はトーンコントロール回路をパスさせることにより上手く出せるようになりました。残りの二つの原因についてははっきりした結論が出ていません。

 電源は決して小さいとも思えないし、20から9kをフルレンジにまかせるのは他の曲と同じだし・・・・・・・。ボレロにはゴングという楽器が使われており、そのゴングが鳴らされた後にいくつもの楽器が大音量でいっしょに鳴るのですが、その時の再生が現在まだ完璧とはいえない。

 案外、最近の蒸し暑さのためにコーン紙が湿っておりフニャフニャになっているのかも知れない。フニャフニャのコーン紙では沢山の楽器はいっしょには再生出来ません。秋まで様子を見ます。コーン紙だけでなくスピーカーBOXも湿度を含んでいますからね。そう言えばクラシックの大編成曲も最近鳴り方が今一です。




クラシックが鳴らないイライラ  2009.08.17.

 定年退職をして、古いオーディオ機器に修理代をかけるなら、いっその事新しい機器で趣味を復活させたい。こんな風に考えて、最新オーディオ機器を揃えた方も多いのではないでしょうか。あのカラヤンやワルターが自分の部屋によみがえる。CDプレイヤーはSACDも再生可能であるが、とりあえずは以前買っておいたCDを聴くのだ・・・・・・・・・。

 夢多き音楽鑑賞、夢多きオーディオライフ。いくつになっても楽しいですね、オーディオって。会社に朝早く行く必要も無いし、じっくりこれからはオーディオがやれる。なんて思いながら以前買ったとっておきのCDをかける。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 「ひでえ音・・・・・・、みんながLPの方が良いと言っていたのは本当だったのか?」  こんな状況を経験した方も多いと思います。そうこうするうちに、新しい録音のCDなんかかけると案外聴けることに気付き、ワルターやカラヤン様にはご引退願う。

 何故こうなるのか?   簡単に言えば、新しい装置で古いソフトは上手く鳴りません。

 細かい理由としては、@昔の録音は再生帯域の狭いモニターで最終調整をしていたので、高域と低域を持ち上げたドンシャリ特性のものが多い。再生帯域の広い最新スピーカーで鳴らすとドンシャリそのものの音になってしまう。A新しいスピーカーほど箱を鳴らさないようにチューニングされている。そのスピーカーで間接音成分の少ない昔の録音のものを聴くとカサカサした潤いのない音しか出ない。こんなところでしょうか。

 音吉モニターは広帯域再生を目標に作られているので、古いソフトは上手く鳴りません。しかし、上手く鳴らす方法がありますよ。それは、再生帯域の狭い昔のアンプを使うことです。普段は最新録音のCDやSACDを広帯域再生可能なアンプで鳴らしていますが、古き良き時代の音楽を楽しみたい時には、昔のアンプが活躍しています。




時間が足りない、人間の一生なんて 2009.09.14.

 ひとりの人間の一生でオーディオがやりつくせるなどとは、最初から思ってはいません。しかし、今回の人生で、5ヘルツから100kヘルツくらいの再生は出来るのではないかと「希望」を持ち続けていました。20ヘルツ以下の低音再生さえ出来るようになれば、あとは100kまで出せるツィターを探せば良いと。

 しかし、今回の人生では無理と判断せざるを得ない出来事に直面しました。低音再生の研究だけでは、広帯域再生は完成しません。簡単に言えば、30k以上の高音を再生するには非常に質の良いアンプが必要なのです。そのことを気付かせてくれたのは金田式アンプです。

 2,3日前に何故か知らないが金田式アンプのことを考えていました。主に電池による直流電源を採用するあたりの事を。その時、単3電池1本で鳴らす昔のカセットウォークマンの高音に驚愕した記憶と共に、「SACDに含まれている高音をまともに再生するには交流を整流したような電源を持つアンプでは無理ですよ」と金田氏が耳元でささやいた。多分幻聴と思う。しかし、その意味の深さが自分をうちのめした。

 フルレンジの良さは基本的に捨てたくはありません。しかし、広帯域再生を完成させるにはやはりマルチアンプかなどと悩んでいるうちに、チャンネルデバイダーの電源の問題や、微細な30kヘルツ以上の高域信号をチャンネルデバイダーを通していいものかなどと悩みがグルグル駆け巡りました。

 結局は現在所有アンプの電源を超巨大直流電源にすれば、フルレンジ+ツィターで5ヘルツから100kヘルツの再生は上手くいくのではないか・・・・・・・・・・。もし、そうだとしても、電源の研究にまで今回の人生では無理でしょう。20ヘルツ以下の低音再生の研究だけでも今回の人生で終わるかどうか。

 「音吉モニター」の再生帯域は20Hz〜30kHzです。その程度の再生を可能にするのに自分は30年以上を使ってしまった。20Hz以下の低音は大問題です。そして直流電源も大問題です。時間が足りません。生きているうちに広帯域再生を完成させるという「希望」は消え失せた。

 しばらくは、「音吉モニター」でSACDを聴きまくります。マルチヌーが気になって仕方がないのです。1959年にマルチヌーが没した時、自分は小学校1年か2年。前橋市立敷島小学校の校庭が黄昏の中に沈みそうな時間帯に、自分が感じていた孤独感がマルチヌーとどう関係しているのか。その辺のことが解決したら、広帯域再生に必要な20Hz以下の低音研究を再開するつもりです。

 直流電源の研究は、次の人生に持ち越すつもりです。今度生まれてきたら、ミューズ方舟の会群馬支部長のように幼稚園か小学校のうちにオーディオを始めたい。








工房音吉研究ノート

    


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